日経新聞「あすへの話題」 2015年7月15日

 梅雨明けが気になる頃となった。ここ数日晴れて、最高気温が35℃以上の猛暑日を記録したところのあったものの、今年はエルニーニヨ現象の影響もあり、梅雨明けはまだのようだ。
 梅雨という言葉は中国からやって来た言葉で、梅の実が熟する頃の雨とか、黴が生える頃の雨(黴雨・ばいう)の意味で知られている。面白いことに「梅雨」の文字は日本の古い文献に見られるものの、人々が日常生活でこの言葉を使うようになったのは江戸時代に入ってからのようだ。それまでは陰暦5月に降るこの雨を「五月雨」(さみだれ)とか単に「長雨」などと呼んでいた。長雨は季節に関係なく数日降り続く雨を言う。
 千年以上も昔に書かれた「源氏物語」には、うっとおしいこの季節を過ごす貴族達の様子が所どころに出てくる。特に、別名「雨夜の品定め」として有名な「箒木(ははきぎ)の巻」には、これはどうしても梅雨明けに違いないと思われるくだりがある。雨が1日中降り続く日の夜、源氏を含む宿直(とのい)の男たちが集まって、妻にするにはどんな女がいいか、さらには自分たちのとっておきの恋の話をして盛り上がる。雨夜の品定めは夜を徹して行われ、そして翌日からは光源氏もふうふういうような、梅雨明け十日の暑い日々が続く。降り続いた雨の翌日にぱっと晴れて以後、炎暑の続くことから、この年は強まった太平洋高気圧が一気に梅雨前線を北へ押し上げ、暑い夏をもたらしたと推測される。前後の文章から、スーパーコンピューターが作る現代の天気図が浮かんでくる。今年はこの梅雨明けのパターンとは異なり、太平洋高気圧の張り出しがたいして強くない。どのような梅雨明けとなるのだろうか?
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