日経新聞「あすへの話題」 2015年8月5日

 8日は早くも立秋、暦の上では秋が始まる。一年のなかで一番暑い今頃が何で立秋なの?と思う人が多いかも知れない。増して温暖化の昨今では、これからまだ続くであろう猛暑への覚悟が必要だったりもする。
 立秋は遥か紀元前に中国の華北で作られた季節の目印・24節季の一つだ。24節気は太陽の一年の動きを元に作られている。旧暦では、一ヶ月を月の満ち欠けで数えていたため一年の長さが定まらず、その不都合を補うためにこの24節気が考え出された。月の暦と違い24節気は何年たってもほとんどずれない。
立春・立夏・立冬をはじめとする24節気の言葉は、中国・華北の美しい自然を元に作られたという。日本の縄文時代に当るほど昔のこと華北の場所を特定することは難しいが、一説に、華北の気候は日本の東北あたりの気候が目安になるのではないかと言われている。四方を海に囲まれる日本との大きな違いは、華北が大陸性の気候であるということ。大陸は太陽の光を受けて海洋よりも暖まり易く冷め易い。華北の春はわりに早くやってきて、秋めくのも暑さのピークが過ぎると日本より早い。
 巡る季節の実感は、自分たちの生への確認につながるのではないだろうか?自然に接する機会の少なくなった平安貴族たちは、季節の巡りを中国からの暦にもとめた。結果、立春近くなると少し強さを増した光や一輪の梅に春を探し、暑い夏の盛りに吹く風の気配に耳をすませた。私はこの、巡り来る季節を今か今かと五感を働かせながら待ち望む感性こそが、古代から続く日本人の季節感につながるのではないかと思っている。
 秋きぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる 藤原敏之朝臣 秋立つ日よめる
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